3.ホームステイ(その2)   3月27日〜3月31日

                    (クライストチャーチ)


3月27日(金)晴れ 18℃


朝食後のレッスンは、「旅行中の体験談を話して聞かせなさい」という事になった。安直といえば安直であるが、実生活に基づいた話題で、結構なことだと思う。例によって、「過去のことを話すときは過去形で」とチェックが入る。そちらを気にしていると話が進まない。強烈なストレスを感じるが、これがレッスンと言うものであろう。


気がつくと、ホームステイの残りの日数も少なくなって来た。午後からは後半の旅行について、ローズマリーがアドバイスをしてくれると言う。とは言いながら私が旅行しようとしている北島に付いては、それほど多くの知識は持ち合わせていないようだ。


クライストチャーチに住んでいる人々の話を聞いていると、彼らの多くは、北島についての関心度が低いように感じる。「オークランドは知っているが、他の所にはまだ行ったことが無い」とか、「北島にはマオリ族が多いですよ」とかの発言からは、北島に対して、「心情的な距離感を持っている」と感じるのは、私の思い過ごしであろうか。


夕食は、白身の魚:タラを使って料理した物に、ご飯を炊いてくれた。きっと精一杯の持て成しである。スイス人のリオにはとても及ばないが、精一杯のお礼を言う。食後は、溜まった日記に取り組んだ。


3月28日(土)快晴 22℃


朝食後、ホームステイの夫婦は「昼ご飯には戻るから」と言って、どちらかへ出掛けて行った。考えて見たら今日は土曜日でレッスンはお休みだ。私は後半の旅行の日程を決めるべく、シティー・センターの旅行代理店に行った。頼りにしていた代理店のおばさんは出勤していなかったが、別のおばさんが相談に乗ってくれた。私の希望を大体言うと、「今はこの通り、お客さんが多いので、夕方の5時に来て欲しい。それまでに考えて置くから」と言う。私は快く了解して店を出た。


どうやって時間をつぶそうか考えて思い付いたのが、先日行こうと思って辿り着けなかった「モナベイル公園」である。今度こそと地図を広げ、バスの路線を確認して再挑戦する事に。シティー・センターから空港行きのバスに乗って途中下車。運転手に確認してから降りると、もう一組の60歳代の夫婦も降りた。


    

              モナベイル公園(1)


挨拶をすると「私たちもモナベイル公園に行くところです。オーストラリアのメルボルンから来ました。先の森林火災は大変でしたが、幸い自分のところは被害を免れました。40度を超える気温と、強風にあおられて、炎の回りが早く、火に囲まれて逃げ場を失った人が多かったのです」と言う。


   

              モナベイル公園(2)


今回は無事「モナベイル」の看板の立っている、入り口に辿り着くことが出来た。エイボン川沿いの、大きくて手入れの行き届いた綺麗な屋敷。写真を撮りながら散策していると、珍しく制服姿の学生の一団、40人ほどに出会う。声を掛けると「千葉の市川学園生です。2週間の短期留学で来ました。宿泊は一人ずつのホームステイです」と言う。一瞬の出会いであったが、同じ県から来ていることで、何か特別の親近感を抱くものだ。


    

                モナベイル公園(3)


モナベイル公園の反対側の入り口(こちらの方が正面入り口のようだが)まで来ると、エイボン川沿いのベンチに腰掛けて、語り合う二人が居た。なんとも絵になる光景なので、「一枚写真を取らしてください」と話しかけると、笑顔でポーズを取ってくれた。これを契機にしばらく話が弾んだ。


      

           モナベイル公園(4)「近所に住む夫婦」


 

二人は「このすぐ近くに住むご夫婦で、夫は本の、妻は住宅のセールスをしている。アジアの人がこの小さな公園に、よく来るけど、どうしてなのかしら?」と言う。私は「日本のガイドブックに、ここの地図が載っているんですよ」とそれを見せてあげた。


  

             モナベイル公園(5)


そして「皆さんエイボン川に浮かんでいる、ガチョウの写真を喜んで取っているけど、そんなものどこにでも居るから、私たちには珍しくも何とも無いけど。後でランチにでもして食べようと思っているのかしら」と冗談を言う。気が付いて見ると、前回もこの付近は歩いていた。ただ此処がモナベイル公園だ、と言う認識が無かっただけであった。


夕方の5時までには、まだ時間があり過ぎたので、一度家に帰って出直した。旅行代理店のおばちゃんは「これを作るのに、一日掛かりましたよ。まだ完了しておりませんが。もう一本電話をさせてください。宿泊はB&B(Bed and Breakfast)もご希望でしたが、適当なところが見つからず、基本的にはYHAで進めております」と言う。


前回のミルフォードソウンドの時もそうだが、今回の計画も、さすがにプロだなと思わせる日程が組まれていて、私は大いに満足であった。これだけの面倒な手配を、たった一人のために、一日がかりで取り組んでくれた、と言うことに感動すると共に、心から感謝した。おばさんは「お客さんに喜んでもらいたいから」と言うだけであった。


日本に居るときに、まだ一度も行った事の無い、ニュージーランドの旅行計画を立てようと努力したが、どうにもならなかった。カナダの場合はそれが出来たのであるが。ホームステイ先でも、「まだ時間があるから、こちらに来てから検討しても良いのではないか」と言うので、其れもそうだと思って来たのである。


日本の国内旅行と一番違うのは、鉄道がメインの旅行は組み立てられないことだ。主な観光地にはバスかレンタカーで行くしかない。運転に自信のある人はレンタカーがよろしい。費用も安く済む。スイス人のリオは、レンタカーで8日間の旅を決行し、殆どモーター・キャンプ場(ニュージーランドではHoliday Parkと言う)で宿泊したようだ。


バスを利用する人は、色々なバス会社が同じようなツアーを、色々な金額で組んでいるので、どれを選んだら良いのか迷う。初めての旅行者が国外に居て、独力で日程を組むことは、まず不可能であろう。帰ってからローズマリーに日程表を見せたら、彼女も感心していた。


シティー・センターでバスを待っていた時、頭からスカーフを被った、イスラム教徒の二人連れに会った。声を掛けて聞いてみると「看護婦養成所に通う学生で、10年ほど前にソマリアから移民して来た。いまだに紛争が耐えないことは、知っています」と言う。帰ってからロバートに話すと、「きっと、ソマリアからの難民であろう」と言う。何はともあれ、ニュージーランドで生活できている人は、幸せな人達だと思う。


夕食は、キッシュとポテトのバター焼き。美味しかった。


3月29日(日)快晴 22℃


朝食を取っているとロバートが、「今日は市民マラソンをやっているので見に行かないか」と言う。何時ものことで突然だが、成るべく相手に合わせる様にしている。行って見ると沢山の老若男女が思い思いに走っている。こんなに多くの人が何処に居たのだろう、と思うくらいの人々だ。参加者数約2万人。後ろの方には車椅子の人、身障者の人達も居た。ゆったりと流れるエイボン川のほとりを駆け抜けるのは気分も爽快であろう。


   

           エイボン川沿いを走る市民


クライストチャーチに来て感ずるのは、川幅1m位の小さな小川でも、潰さないで大事に保存している。日本なら小川を潰して、真っ直ぐな道路を作ったりするが、こちらでは、小川が曲がっていれば、道路もそれに合わせるように曲げて造っている。自然保護の精神が幅広く行き渡っていることを感じる。


   

               市民マラソン


これも土地の割に、人口が少ないから出来ることなのか。日本ではまず住む所を確保しなければならない。しかし、日本だって田舎のほうでは、過疎化で悩んでいる所も沢山あるではないか。政治的に取り組める問題でもあろう。


こんなに豊かな自然があっても、ニュージーランド政府は、これ以上自然を破壊しないように懸命になっている。だから空港での動植物の持ち込みチェックが厳しい事は有名だ。そして今迄は、ヨーロッパから沢山の動植物を持ち込んだが故に、ニュージーランド固有の動植物を失って来た。それらのうち回復させることが出来るものは、何とか再生させようと必死で取り組んでいる。


日本の捕鯨活動に対して、過剰なまでの反対運動が起きるのは、このような環境破壊に対して、ニュージーランドだけは環境を守り抜くのだと言う、強い意思表示の現われでもあると思う。確かに鯨は一度絶滅の危機に陥った。牛は幾らでも育てることが出来るが、鯨は養殖が出来ない。だから絶滅させないように慎重でなければならない。そこのところが牛を食うのと違う点だ。


残念ながら日本は鯨を絶滅させかけたという点で、前科者だ。前科者が「鯨はもう十分増えてきた」と正当なことを言っても、なかなか信用して貰えないのは、止むを得ない事かもしれない。


午後からは、これもローズマリーからの突然の発案だが、車で20分ほどの、ウエットランド(Wetland:湿地)に二人で行って来た。東京とは比較にならないが、クライストチャーチも人口の流入が進み、住宅地の開発が広がっている。昔のクライストチャーチの面影は失われつつある。これではいけないと、慌てて保護地域を設けて再生に乗り出したのが、このウエットランドである。


   

              ウエットランド(1)


何十年も掛けて昔の森を再現しようとしている。ゆっくりと2時間ほどで歩けるように、遊歩道が設けられており、お天気が良かったせいか散策に訪れる人が、三々五々見受けられた。「此処は地元の人しか知らない秘密の所だよ」とはローズマリーの言。


     

             ウエットランド(2)


夕食は、ラム肉(lamb)のバーベキュー。羊の肉だが全く臭みが無い。1歳未満の羊の肉をラムと言い、1歳以上の羊の肉をマトン(mutton)と言う。私が昔、日本で食べていたのはマトンなのだろう。匂いがきつかった。


3月30日(月) 晴れ 20℃


今日のレッスンは、フリー電話(Answer Phone)の掛け方。明日でホームステイが終了し、オークランドへ向けて旅立つが、重いスーツケースは送ってしまおうと言う算段だ。そこで送料の安い業者を探すことになった。ローズマリーが3軒の業者に電話をして見積りを取る。「そばで聞いていて、4軒目はお前がやってみろ」と言う。どきどきしながら何とかクリアしました!


その後、オークランドへの途中に寄る予定の、エイベルタスマン(Abel Tasman)への日帰り観光は人気があるので、予約を入れておいた方が良い、と言うことで、インターネットで試みる。地理感の無い私は、ローズマリーの援助を受けながら、予約を完了した。


午後からは両替と、シンガポールのホテルの予約にシティー・センターへ。両替は1ドル=56.54円で、10日前(1ドル=53.61円)より更に円が下がっていた。シンガポールのホテルの方は、余りに高いので(2泊で324ドル〜424ドル)YHA関係をインターネットで探すことにした。結果は2泊、68ドルで予約できた。


夕食は、骨付きチキンのソテーと、沢山のベジタブル。美味しゅう御座いました。


3月31日(火) 曇り 15℃


ホームステイ最後のレッスンは、地震に関する新聞記事の読み合わせだ。土曜日の朝、マッケンジー盆地で、震度4.9の地震があったと書かれている。大した被害が無い割には記事の扱いが大きい。ローカル紙の特色を感じられる内容であった。

その後、ローズマリーはフランス語のレッスンに行き、私は荷造りに取り掛かった。オークランドに送るスーツケースの重量は、約23Kgになった。送料は65ドル。


ホームステイした者が記帳するノートがあったので、私は次のように書いて来た。


Dear Robert and Rosemary

Thank you very much for your meals, lessons, laundries, advices etc.

I was able to have many important experiences during the home stay.

I think I was able to learn many things about New ZealandChristchurch.

That was very exciting matter for me. 

These experiences will be my precious treasure.

I will continue my English learning from now pleasantly.

I wish your family will be happy forever.

Thank you very much again for every thing!

 

Masaharu Ejima


お世話になりました。


ホームステイは、する方も、させる方もそれぞれが、応分の気遣いが必要であることは当然であるが、ロバートやローズマリー夫婦のように、普段の家庭生活を犠牲にすることなく、自然体で受け入れが出来るのは、素晴らしいと思う。それでも私が居なければもっと自由に、気ままに暮らせるのに、そこは仕事と覚悟して掛かっているのであろう。


季節が冬に向かうとホームステイの希望者も無くなり、去年の冬は二人して、数ヶ月間のヨーロッパ旅行をしてきたと言う。その間、自分の家は他人に貸して。これもインターネットで希望者を募り、ちょうど希望する人が居たという事だ。


午後から床屋へ。とは言っても、日本の床屋とはだいぶ違う。バリカンと串で粗方切り落とし、ほんの数回鋏を入れて、ハイ終わり。髭剃りも洗髪も無い。所要時間10分足らず。料金15ドル。看板には「ヘヤーカット:hair cut」と書かれているから之で良いのか。家に帰って鏡を見ると、揉み上げは揃っていないし、耳の毛は生えたままだし、所々に長い毛が残っている。それでも、床屋に行く前よりはスッキリしてはいる。


この国のやり方は、多くの面で日本ほど精密ではない。道路の舗装もされてはいるが、日本ほどお金を掛けていないと思う。大雑把であるが長持ちしそうな舗装の仕方である。日本の舗装道路は綺麗だが、すぐに傷むのはどうしてなのか。


夕食は、私が非常食用に持ち込んでいた、真空パックのご飯と、インスタントの味噌汁、それにカレーを作ってもらい美味しく食べた。買って置いたワインも少々。私は大変満足しているが、ローズマリーたちにとって、白米と味噌汁と言うのは、如何なものであろうか?やはり少々我慢して食べているのかも知れない。


夕食後、かねて作っておいた、お皿の陶器を受け取りに、コミュニティーセンターへ行った。出来ばえは、こんな物だろうと言うところだ。初めから素晴らしい物が出来れば、プロは要らない。何度かやっているうちに、徐々に巧くなるのだろう。3枚の皿の内、1枚は明らかに失敗。葉の付け根が無いし、安定感が悪い。他の2枚はまずまずだ。


今日で4週間のホームステイは終了。残す3分の1の日程も決まり、後はこなして行くだけになった。お天気と健康を祈るだけだ。土曜日までの予報では、良い天気に恵まれそうだ。



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